(ひとくち知識)アクティブラーニングの有効性
(ひとくち知識)アクティブラーニングの有効性
寄稿 シーガル研修・研究機構 理事長 松田米生
- アクティブラーニングが求められる時代背景
VUCA(将来予測困難)と言われているように、社会の成長スピードが世界的に上昇しており、同時に労働者一人ひとりの生産性の向上が今後ますます必要とされています。そういった変化の中で、誰かの一方的な指示を仰ぐのではなく、自らが主体的に課題を発見し、周りの人を巻き込みながら課題を解決していく人材こそが求められるようになっています。このような社会トレンドを背景に、アクティブラーニングを組織研修に導入する動きが生まれているのです。 - アクティブラーニングとは?
アクティブラーニングとは、受講者自らが能動的に取り組む学習方法のことです。講師が受講者に対して一方向的に情報提供を行う、従来の座学形式とは異なり、受講者同士が情報を発信していくことが特徴です。そのためアクティブラーニングでは、議論やゲーム、ビジネスシミュレーションといった、グループワークが多く取り入れられます。たとえば、「福祉業界についてのトレンド、業界知識を深める」ことを目的に学習をするとします。従来型の学習の場合、福祉業界について詳しい人物を講師として招き、福祉業界の歴史やトレンド、主な資格や役割の機能についての講義をしてもらうのが一般的でした。ですが、アクティブラーニングで学習する場合には、自分たちで情報を集めて発表してもらったり、一人ひとりに異なる資料を渡してディスカッションしてもらうといったことをします。このとき、講師は業界知識を与えるのではなく、グループに対して「○○について調べてみたらどうかな?」「△△についてはどう考えているかな?」といった気づきを与える役割を担います。
そんなアクティブラーニングの始まりは、1980年代の米国にあります。当時の米国では、国力の増加を目指して教育の大衆化を進めていました。ですが、教育の大衆化を進める中で大きな問題が生まれます。それは、「学びが習得されない」という課題です。つまり、大衆化を進めることで「既存の学習方法では理解が進まない人物」や「モチベーションを維持できない人物」が増加したのです。これを受けて、学習方法を見直す動きが生まれ、学習者が主体となる学習方法が考案されたと言われています。 - アクティブラーニングが導入される理由
アクティブラーニングを研修に導入する学校や企業が増えている背景には、日本の社会構造の変化があります。始まりは米国と同様で、教育の大衆化を進める手段として学校教育に導入されていきました。ですが、当初の段階におけるアクティブラーニングは、グループワークなどの導入には至らず、「学習者に調べ物をしてもらう」「授業に対する感想や質問を募る」といったレベルに留まっていました。現在のように、グループワークによる学習方法が用いられるようになったのは、「生産性」「主体性」「問題解決力」「クリエイティブ」といった要素が重要視されるようになったからだと言われています。 - アクティブラーニングを導入するメリット
このアクティブラーニングを組織研修に導入するメリットは、主に4つあります。そのメリットとは、以下の通りです。
1. 問題解決力の向上
2. 受講者の自発性が向上
3. 新しい発想や観点の誘発
4. 対人スキルの習得
では、それぞれについて詳しく解説していきます。
1 問題解決力の向上
アクティブラーニングの手法を導入した組織研修では、課題に対して受講者自身が自分で考え、自分で答えを出す機会が増えます。講師から知識や正解を教わるだけではなく、自分なりに答えを出すプロセスを学べるため、受講者の問題解決力向上につながります。
2 受講者の自発性が向上
アクティブラーニングでは、講師はあくまで受講者のサポート役であり、受講者自身に主体性が求められます。組織研修においては、あるビジネスのケースについて、「自分ならどうするか」を問われることも多くあります。自分で考えて答えを出し、それを実践するという経験を通して、日常業務における自発性の向上が期待できます。
3 新しい発想や観点の誘発
アクティブラーニングでは、正解がない課題に取り組むことも少なくありません。そういった課題には、これまでの知識や経験を駆使して、自分のアイデアや解答をまとめることになります。そのようなアウトプットの過程で思考が整理され、新しいアイデアや斬新なアイデアに出会うことがあります。また、受講者同士の意見交換によって自分にはない観点や考え方に触れることができます。そういった経験によって、新しいアイデアの創造や新しい観点の醸成が期待できます。
4 対人スキルの習得
アクティブラーニングでは、複数名で構成されたチームで学習を進めることがあります。そのため、活動の中では話を聞く力、意見を伝える伝達力、意見をまとめる力、議論を進める質問力など、多くの対人スキルが求められます。これにより、受講者は研修のテーマだけではなく、チームワークや対人スキルの向上も期待できます。
このように、やや古くてなお現代的な意義の認められるアクティブラーニングですが、まだまだ進化する要素を備えているようです。
私どもシーガル研修研究機構でも、福祉現場が抱える課題解決の取組みに資するため、アクティブラーニングを研修活動の中軸に据えてこれからも活動を進めてまいります。